基準値きみのキングダム



まず、ツンと焦げの匂いが鼻を抜けた。

もごもごと口を動かすと、雑炊なのになぜかジャリジャリした砂みたいな食感がして、それからとんでもなく。




「……しょっぱい」




それはもう、海水なんじゃないかってくらいに。

あまりの塩辛さにびっくりして、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。美味しくは……ない。



こくっとなんとか飲みこんで、顔を上げれば、深見くんの顔には “絶望” と書いてあった。



数秒の沈黙が訪れたのち。





「……っ、ふっ」





こらえ切れず、肩が震えてしまう。
声を上げて笑う私に、深見くんは怪訝な顔をした。


それでもツボに入ってしまったものは、もう引き返せなくて。



「んふっ、深見くんって、ほんとに料理苦手なんだ、ふふっ」

「……おい、笑うなよ」

「だって、こんなしょっぱい雑炊はじめて食べた……ふっ」




考えれば考えるほど可笑しくて、くすくすと笑い続ける私に、深見くんはあからさまに拗ねた顔をする。


さっきから、深見くんの新しい顔に出逢ってばかりだ。