基準値きみのキングダム



「杏奈ってけっこうチャレンジャー?」

「そんなこと、ないよ」

「いや、そうだろ」




深見くんは不安げなまま、お鍋から雑炊をすくって器によそう。



いつも、ふわふわと笑みを浮かべている柔和なイメージだから、こんなにも不安に満ちた表情を見るのははじめてだ。



そして、深見くんはスプーンですくって、ふーふーと息をふきかけて冷まして、そのまま私の口もとに運ぼうとするから。




「じっ、自分で食べられるよ!」




慌てて布団のなかにもぐらせていた腕を抜いて、スプーンとお皿を受け取ろうとするけれど、深見くんは甘やかな笑みを浮かべてそれを器用にかわす。



そんな。


人に食べさせてもらうなんて、そんな子どもみたいなこと、だめなのに。

恥ずかしい、のに。



きっぱり断れるほど嫌だとは思えなくて、むしろ甘えたい気持ちの方が勝ってしまって、最終的におずおずと口を開いた。



風邪で弱っているせいだから、って心のなかでしっかり言い訳して。




「……ん」




深見くんが私のひらいた唇の間にスプーンを差しこんで、どろっとした雑炊が舌の上に乗る。