基準値きみのキングダム



瞬間、ぶわっと鼻に届いたのは、焦げの匂い。

びっくりしてお鍋を覗き込むと、そこにはどろっとした茶色いなにかが入っている。




「ええと、これは……」

「雑炊」

「……」

「……焦がしたけど」




雑炊って、焦げることあるんだ。

なんて新鮮に驚いてしまった。

深見くんは、おそるおそるといった様子で、私に視線を寄越した。不満げな上目づかい。




「これ見ても食いたいって言う? 正直、人間の食べ物じゃねえよ。……食材無駄にすんのもあれだから、これは俺が片付け────」

「食べたいっ、食べる」




お鍋の蓋を閉じようとする深見くんの手をとっさに掴んで、止める。

そんな私に深見くんは大きく目を見開いた。




「正気? これ、俺でも無理なくらいダークマターなんだけど」

「うん」




しっかりと頷くと、深見くんはさらに目を見開いた。

瞳がこぼれ落ちちゃうんじゃないかってほど。