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𓐍
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『森下とかどうなん? 隣の席だろ、今』
『あー、無理無理、100ない。かわいげのない女なんて、つまんねえもん』
誰に言われなくてもわかってるよ、そんなこと。
森下杏奈はかわいくない、なんてこと、17年とちょっとのあいだ、森下杏奈として生きてきたんだから、森下杏奈自身がいちばんわかってるに決まってる。
『ほんっとかわいくねーよな』
なにが、だめなんだろう。
中学生になった頃に、何時間もかけて鏡とにらめっこして考えたことがある。
生まれつきの、猫目のツリ目のせい?
面長な輪郭? つんと上向いた鼻先?
それとも、ワンレン直毛のロングヘア?
なにがだめ、なんだろう。
『杏奈ちゃん、メイクとかしたらいいのにー。髪の毛もいっそふわふわ巻いちゃうとか、染めちゃうとか! あーっ、ほら、爪もマニキュアとか塗らないのっ? 女の子は努力でかわいくなるんだよっ』
でもお化粧品って高いの、知ってる。プチプラもあるって教えてくれたけれど、色つきリップをひとつ買う値段で、食べ盛りの奈央の夕食に、コロッケをふたつは増やすことができるって知ってる。
私に髪をくるくる巻く時間がもしあったなら、京香のほわほわの髪を編みこみとかお団子にしてあげたい。
マニキュアを塗ると、お料理のときに不便なの。



