基準値きみのキングダム



わざわざ、準備してくれたってこと……?

私の、ために。



私がいない教室で、深見くんの頭のなかに少しでも私がいたと思うと、そんなの。




「いいのっ?」




嬉しい、と素直に思ってしまう。




「読めなかったら言って。俺、ノートテイクけっこー雑だから」

「ありがとう。……ほんとうに、ありがとう。嬉しい」




熱で頭がふわふわしているからか、いつもはなかなかすんなり出てこない素直な気持ちが、口からすべり落ちる。



へらっと笑うと、深見くんが目を見張って。


ちょうどそのとき、体温計の電子音が響いた。




「……どう?」

「ええと、38度7分……」




一応、下がってはいるみたい。


よかった、と胸を撫で下ろした私の額にひやりとしたものが触れた。




「まだまだ熱あんのな」

「……っ」




冷たさに目を細めて、それからひと呼吸置いて、それが深見くんの手の甲だと気づいた。


風邪とは別の理由で、かっと頬が熱くなる。




距離が、近い。
近すぎる。




それに、こんなに近づいたら。