基準値きみのキングダム




「たよ……私が?」

「そう、森下が、俺を」

「頼らなくても、大丈夫だしっ」




ふい、と顔を背けたどこまでもかわいくなれない私に、ふ、と深見くんは笑った。どこまで頑ななんだよ、とからかうような声色で言ってくる。




「頼る、必要、ない」

「じゃー、頼らない必要もないな」

「なんでっ?」

「なんでって……」




深見くんが顎に人差し指の第二関節をあてて、少し考える仕草をする。ぱしぱしと長い睫毛を2回ほどはためかせたあと。




「ひとりよか、ふたりのほうが早いじゃん?」

「……っ」




な、と同意を求められても、なにも言えなかった。

それを良しととったのか、深見くんは黙々と、私がすべてこなすはずだった集計を進めていく。



深見くんが手元を動かす度に、柔らかい色の髪がさらさら揺れる。その揺れるリズムすら見ていて心地がよくて、なにもかも忘れて少しの間見惚れてしまって。



あわてて、我に返る。


そうしてふたりの手にかかれば、アンケート用紙の山は、ひとつ、ふたつ、とあっという間に崩れて瞬く間になくなってしまった。




「あの……」




ことが済むと、何事もなかったかのように立ち上がって、カウンター────図書委員の定位置に戻ろうとする深見くん。




「あの」




慌てて、深見くんの制服の袖を掴んだ。
きゅっと握って引くと、深見くんの視線がちら、とこちらを向く。────あ。




「えと、助かりました、手伝ってくれて」




目もうまく合わせられない。
かわいく微笑むこともできない。


それでもなんとか、ぎこちなく言葉を紡いだ。
つっけんどんでへんてこなお礼の口調に、深見くんがなぜか、ふっと口角を上げたのを気配で感じた。




「急いでるんだろ、早く帰りな」




どういたしまして、も言わない。
ただあたりまえのように、そっと私に帰りを促す。


みんなの注目を集める人気者の深見くんは、思っていたよりも繊細な優しさを持ったひとなのかもしれない。