迷いの果てに、お弁当箱ごと近衛くんの方にずいっと差し出すと、近衛くんは「マジか」って、からかうように笑った。
どういうこと?
「いや。食べさせてって言ってんだから、このシチュは照れながら“あーん”でしょ」
常識みたいに言ってくる。
ほんとうに? それが普通なの?
ただただ困惑して、軽口すら叩けない私に近衛くんは、自ら飲んでいた紙パックのレモンティーを差し出してくる。
「えっ、なに?」
「飲む?」
「……? いい、喉乾いてないし、大丈夫」
丁重に断ると、近衛くんは呆れたように「はは」と笑った。
「かわいげないねー。やりづらいんだけど」
容赦なくそう言って、近衛くんは私をじっと見つめる。
それから「やっぱ、わかんないな、俺には」と呟いた。
「真面目で頭かたいって言われない?」
「……っ」
「ま、いい意味で言うとしっかりしてるしひとりでも生きていけそうだよね。俺には良さはわかんないけど、あいつには杏奈ちゃんのそういうとこが刺さってんの? 謎だわー」
はあ、と曖昧に相槌を打つと、近衛くんも煙にまくような笑顔を浮かべた。
よくわからないことを言われた。
わかることは、とにかく『かわいげない』って言われたことで、そして、それは大正解だってこと。
わかってるよ、とため息をついてしまいそうになったタイミングで。
「椋」
「お、うわさをすれば恭介」



