「……愛してる」

彼のささやきに、私は少し泣いてしまう。私も微笑み、「私もよ」と言った。

計画がこれほどうまくいくとは思っていなかった。今ごろ、私の家族は血眼になって私を探しているだろうけど、私と彼はデンマークに逃亡するし、電話番号なども変えてある。友人などにはどこに私が行ったのかは教えないように言ってあるし、家族に見つかることは絶対にない。

「これからは、俺が守るからね」

そう隣で微笑んでくれる彼。私の夫となった人。

全ては、私が高校生の頃から始まった。



私、岩崎玲(いわさきれい)の家は、お金持ちの一族の分家。親戚はとても多く、いい大学を出て一流の会社に就職するのが当たり前の家だ。

私の家も、本家も、表向きはお金持ちで何不自由ない幸せな生活ができる家だと見られているだろう。表向きは……。

「……ただいま」

私が学校から帰ると、たまたま玄関に顔を出した高級な着物を着た母が冷たい目で私を見る。

「帰って来たの?私はこれから歌舞伎を観に行くから」