クズの間に生まれた子どもはクズなのか？

「今日会社休みなのよね？来ちゃった」

アパートの一室。五十鈴くんに私は笑いかける。五十鈴くんも「来てくれてありがとう」と微笑んでくれた。

五十鈴くんがあの時言ったのは、一旦その人と結婚したフリをして落ち着いた頃に一緒に駆け落ちしようというものだった。

私は役所に婚姻届は提出していない。だから、将吾の妻ではない。愛してもいない。私が愛しているのは、五十鈴くんだけ。

「ねえ、雰囲気がないけど、してみたいことがあるんだ」

私の頭を撫でる五十鈴くんが言い、私は「何？」と首を傾げる。

五十鈴くんは、そっと私の左手の薬指に口付ける。私は五十鈴くんのところに来る時は、いつも結婚指輪を外している。あんな愛のないもの、いらない。

「俺、小川五十鈴は一生あなたを愛すと誓います」

私の胸が高鳴る。それは、結婚式ごっこだった。

「私も、一生あなたを愛します」

二人の唇が重なる。それは、二人きりの特別で幸せな結婚式だった。