以前は勝手に奪っておいて、今だって断りなく手首にしたじゃない、なんて思わなくもないけれど、好きな相手に求められて断るはずもない。
「……はい」
それは、ごく小さな声だった。
ともすれば別の音にかき消されてもおかしくないか細い声。
しかし、陽は聞き逃すことなく、紬花の唇に優しく口づけた。
紬花が閉じた瞼を震わせ幸福に酔いしれていると、キスの合間に「覚えていないか?」と問われる。
「七年前に、俺たちは出会って、一緒に過ごしたのを。お前の願いを叶える為に」
七年前、願いを叶える為に協力してくれた人物といえば、やはりひとりしか思い当たらない。
「でも、苗字が……あと、眼鏡もかけてたし。でも御子柴さん、裸眼ですよね?」
「苗字? 眼鏡?」
「私が一緒に過ごしたのは、鳴瀬さん、でした」
紬花が口にした「鳴瀬」という苗字に、陽は覚えがあった。
そして、昔の自分がおかした失態に気付いて「そういうことか」と深い溜め息を吐いて体を起こす。
「そうだな……確かに俺はあの時鳴瀬と名乗ったな。お前をナンパしてた男に」
「ナンパ! そうです!」
互いの記憶が一致し始め、紬花は興奮して陽を追うように上体を起こすと「え? 鳴瀬さんが御子柴さん?」と首を傾げた。
一体どういうことなのかさっぱりわからない紬花に、陽は答えを明かす。
「鳴瀬は、俺の母親の旧姓だ」
そうして、陽は紬花と共に、徐々に蘇る記憶を辿り、語りながら共有した。



