「え……あ、あの……?」
それほど体重はかけられていないものの、覆いかぶさられているという事実に紬花は軽く混乱する。
とりあえず多分は余計だと注意されたので「すみません、つい恥ずかしくて」と素直に述べれば、陽はフハッと息で笑った。
(あ……笑って、くれた)
ようやく願っていた時が訪れて、紬花は喜び、少しだけ安堵する。
しかし、この体勢で居続けることが心臓に悪いのは変わらず、「御子柴さん、あのそろそろ起き上がりませんか」と提案するが「断る」と即座に却下された。
「な、なんで」
「……やっと……叶ったからだ」
「叶った? 何が、ですか?」
「俺は、もう何年も前から……お前に心を奪われて、忘れられなかったんだよ」
少し拗ねたような口ぶりで囁いたのは、俄かには信じられないような内容。
(御子柴さんが、私のことを何年も前から……?)
そんなことがあるはずないと思う紬花の頭に浮かぶひとりの存在。
もしかして、陽と面接で対面した際、似ていると感じたのは勘違いではなかったのでは。
いやしかし、やはり苗字が違う。
もういっそ尋ねた方が早いと考え、顔を覆っていた手を少しだけずらすと、頭を上げた陽が紬花の手首にそっと口づけを落とした。
先程から騒ぎ続けていた鼓動がこれでもかと跳ね上がると、トドメとばかりに陽の低く掠れた声が「橘」と呼んだ。
「キス、していいか?」
甘い確認に、紬花は一瞬呼吸を忘れる。



