「おいっ、危ないだろ!」


語気を荒げながら紬花の行いを注意した直後、はたと陽は気づいた。

紬花が仰向けになって床に倒れ、自分の下にいることに。

濃紺のラグマットに柔らかく乱れて散らばる髪、羞恥にほんのりと朱を差した頬。

まるで、ベッドの上で組み敷くような体勢に、浴室でのことを思い出した陽の視線が、無意識のうちに紬花の唇へと向かう。

心臓が激しく鼓動を打ち始め、また身勝手な行動に出る前にと急ぎ体を起こそうとしたが、それは再び紬花の手によって防がれてしまう。

逃すまいと上体を支える陽の左腕に、紬花の両手ががしりと巻きついているのだ。


「は、離せ」

「嫌です!」

「なっ……」


紬花とて、この体勢が恥ずかしくないわけではない。

陽と同じく、脳裏には浴室での出来事が浮かんでいる。

しかし、今ここでしっかりと向き合わなければならない気がしたのだ。

そうしないと、陽にはもう二度と、あの穏やかな笑みを見せてもらえない気がしてならない、と。

表情に戸惑いの色を滲ませている陽は、力任せに紬花を引き離したりはしなかった。

なぜ離さないのか。

その理由を紬花の口から語られるのを待ってくれているのだと感じ、紬花は少しだけ陽を拘束する手の力を緩めた。


「最初は……最初は確かにそうでした」


先ほどよりも少し落ち着きを取り戻した声に、陽はただ耳を傾ける。


「最初は、御子柴さんに怪我をさせてしまったから、お世話しにきただけでした」