紬花が陽の笑みを欲する理由。

そのきっかけは、陽が不機嫌そうにしていたからだ。

その原因が肉体的な疲れなのか精神的なものなのかわからないが、元気になってほしいと思った。

そして、元気を取り戻せたらきっと、また温かな笑みを見せてくれるだろうと。


「お前はただ、責任を感じて世話をしに来ただけだろう」


俺が笑おうが怒ろうが泣こうが、お前には関係ない。

陽の指摘に、紬花は答えを探して俯く。

しかし、その様子を話すつもりがないのだと解釈した陽は、話はこれで終わりにするとばかりに立ち上がった。

……のだが。


「待ってください!」

「おわっ」


紬花の手が、逃がすものかと陽の纏うニットセーターの裾を思い切り掴んだ為に、陽はバランスを崩してよろめいた。

一瞬、血の気が引く。

予期していなかった力に抗えず床に倒れ込んだが、ギリギリ、左手と膝をついた体勢で落ち着いた。

けれど、角度と運が悪ければ、せっかく経過良好な右腕の怪我が振り出しに戻ってしまうところだった。

むしろ、少し力を入れてしまったようで微妙に右腕が痛い。