「というわけなんだ」

「あの、社長」

「なんだい?」

「ごめんなさい、御子柴さんが戻ってきたようなので、私はこれで失礼しますね!」


何かあったのかと陽のことが心配になり、紬花は忙しなく立ち上がると伝票を手にしてお辞儀を残して踵を返す。

パンプスの子気味良い音が遠ざかっていく中、声を返す間もなく呆気に取られている博人の前に「お待たせいたしました」と、ホットサンドの乗った皿が置かれた。

博人はコーヒーを一口飲みながら思う。


(なるほど、これは進展させにくいものがあるな)


紬花のマイペースさに、少しだけ弟の苦労がわかったのだった。