あゆみは短い髪を耳にかけ、ふたりに気付くと表情を明るくする。


「ふたりともお疲れ〜。ゆいちゃん、デザインどうだった?」


デザインを任されたことを数日前のランチで紬花から聞かされていたあゆみが、興味津々といった様子で瞳を輝かせる。

すると、紬花は「決まりました!」と、花のような笑顔を咲かせた。


「おお! おめでとう! 御子柴君も嬉しいでしょ? 可愛い弟子がついにデザイナーとしての本格的な一歩を踏み出したんだから」


あゆみに肘で腕をつつかれた陽は、緩く首を横に振る。


「別に橘は俺の弟子じゃない。だが、まあ……出来る限りのフォローはしてやるから、また変に考え過ぎないように気をつけろよ」


以前のようにこじらせて前に進めなくなることのないよう、先回りしてアドバイスした直後、今度はエレベーターが開いて博人が姿を現した。

洗練されたスーツを纏った博人は、コートとマフラーを腕にかけ、目を柔らかく細める。


「廊下に固まって、何かあったのかい?」


紬花が「お疲れさまです」と資料を手にお辞儀をする横で、陽は警戒し、振り返りながら背に紬花を隠した。


「社長。お疲れさまです。なんと、ゆいちゃんのデザインが採用されたんですよ~」


嬉しそうな声色で語るあゆみに、博人は「そうか」と相好を崩した。


「それはおめでとう。橘さんを雇った陽の目に狂いはなかったということか」


さすがは俺の弟だと誇らしげに陽の肩を叩く博人は、さり気なく陽の身体をずらして紬花に微笑みかける。