その後も打ち合わせは順調に進み、細かな直しを経てデザインは確定。

デザイン画で紹介した生地は一例としてのものなので、次回の打ち合わせでドレスに使う生地や素材を決め、見積り金額を出すことを伝えると、長谷川は予約をとってから店を出た。

エトワールの商品として、自分がデザインしたドレスが世にでる。

紬花は喜びに胸を震わせながら、共にオフィスへと戻る陽に「機会をくださってありがとうございます」と礼を述べた。


「まだ完成したわけじゃない。礼を言うなら長谷川さんにドレスを引き渡してからだ」


以前なら見せなかった微笑みを向けられて、胸が甘く高鳴る。

陽がこんな風に柔らかな笑みを浮かべるようになったのはいつからだったか。

居候を始めた頃には対応ももっと冷たかったのは確かで、しかしこの変化を嬉しく思いつつ紬花ははにかむ。


「はい! 頑張ります!」


思いもよらず嫉妬心を抱き、陽への気持ちに戸惑ってから数日、紬花は陽に対してぎこちない態度をとってしまっていたのだが、今のところまだ"恋"なのだと確信するには至っていない。

けれど、浴室でキスを交わした日から異性として意識していたのは間違いなく、今も隣を歩いているだけで少し気持ちが浮ついてくるような気がしていた。


(恋って、こんな感じだったかしら)


鳴瀬を想っていた時は、苦しかった覚えがある。

会いたくても会えず、溜め息ばかりが落ちていく日々を思い出し、鳴瀬の面影に似た陽の背中を追って歩いていると、廊下の奥、縫製作業などが行われているアトリエからあゆみが出てきた。