中から現れた陽と紬花の視線がぶつかる。


「み、御子柴さん……!」


陽は、動揺し瞳を揺らす紬花の様子を不思議に思いながら、ミーティングルームの扉を後ろ手に閉めた。


「なんだ? 帰るならもう少し待」

「すみませんっ! 今、御子柴さんとは一緒にいられなさそうなのでひとりで帰らせてください」

「は?」

「ごめんなさいっ」


深々と、しかし素早く頭を下げた紬花。

その顔が赤らんでいるのを陽は見逃さない。

しかし引き止める間も無く、紬花は慌ただしくオフィスの扉の向こうへと消えてしまった。

リフレッシュスペースから現れた博人が小さく肩を揺らして笑う。


「お前も振られたな」

「……"も"? 兄さん、彼女に何かしたのか?」


陽の目が鋭く細められ、不機嫌さを露わにする。

それは、紬花が陽の家の玄関で対応した時と同様で、博人は内心その反応を楽しんだ。


(何においても俺の方が上であらねば。橘さんが陽より俺を選んだら、俺は男として陽に勝る存在だということになる)


博人の瞳の奥に、うっすらと愉悦が浮かぶ。