紬花には、覚えがあった。

鳴瀬に恋焦がれて、けれど会うことが叶わずいたある日、想像したのだ。

鳴瀬には、もしかしたら彼女がいるのでは、と。

そうであれば、自分がこうして探しているのは鳴瀬にとって迷惑なことなのではないかと。

これ以上、追ってはいけない。

いるかもしれない彼女と幸せそうにしている鳴瀬の姿を思い浮かべれば、苦しいような切ないような、なんともいえない痛みが胸を締め付けた。

その痛みの名は、嫉妬。


(私、御子柴さんがマネージャーといい雰囲気になるのが嫌なんだ。でも、それってつまり……)


自分の中でいつのまにか芽生えて育ち始めていた想いに気づいた紬花は、頬を赤く染めた。


「い、いつからでしょう?」


思わず目の前にいる博人に向かって問いかけるも、もちろん質問を理解できない博人は首をひねる。


「え、何が、かな?」


普段は堂々とした振る舞いを見せている博人だが、突然問われて戸惑いを隠せない。


「社長、ごめんなさい。私、ちょっと考えたいことがあるので今日はお先に失礼しますね」


陽には先に帰るとメールで伝えておくことにし、本をしまうと自分のデスクを手早く片付ける。

次いで、鞄を肩にかけ、律儀にもう一度博人に頭を下げて踵を返したちょうどその時、ミーティングルームの扉が開いた。