陽に覆いかぶさるような体勢で繰り返される触れるだけの口づけは、いつしか深くなり、これがファーストキスとなる紬花は翻弄されるばかりだ。

やめてほしいと強く突き離せないのは何故なのか。


(鳴瀬さんと……似ているから?)


初恋の男性の面影が脳裏にちらつく。

名前が違う、似ているだけだとわかっていても、鳴瀬を思い出そうとすると陽の姿に重なった。

けれど、違うのだ。

陽は鳴瀬ではない。

このまま受け入れていてはいけないと、紬花の手が陽の胸を強く押す。

しっかりとした抵抗を受け、陽は我に返り唇を離した。

紬花の髪に差し入れた指からも力を抜いて解放する。

温かなシャワーは相変わらずふたりを濡らしているが、陽の頭は少しずつ冷静さを取り戻した。


「手伝いは、もういい」

「は、はい……」


最後までやると言える状況にないことは紬花もわかっている。

何より、ここに残って更に陽の手伝いをするのは恥ずかしくて耐えられない。

罰とは何の罰か。

それを聞く勇気も今はなく、紬花は立ち上がると、なるべく陽の身体を見ないように頭を下げて「ごめんなさい」と告げてから浴室を出ていく。

陽はゆっくりと上体を起こすと、左手を額に当てた。


「なにをやってるんだ俺は……」


身勝手な自分に呆れ重く吐き出された陽の溜め息は、流れるシャワーの音にかき消された。