『御子柴さん、お疲れ様です!』

『ああ、お疲れ。今日はこんな時間まで振り回して悪かったな』

『いえ、勉強になりました』


一流のファッションモデルとはどうあるべきかだけでなく、デザインした作品に向き合う陽の情熱は紬花の心にも熱を灯したのだ。


『御子柴さんのドレスたちは、御子柴さんの愛をたっぷり含んで作られているから、どれも素敵なんですね』

『作品の栄養分が愛かどうかはさておき、プロであるなら当然の考え方だろう』


モデルにしても、デザイナーにしても、プロならば妥協や甘えは許されない。

常に最高のものを求め、見た者の心を奪わなければならないのだと、陽は語りながら紬花と共に路地に続く階段を上がった。

その時だ。

疲れが足に出たのだろう。

いつものように足を上げて階段を踏みしめていた紬花の足が、かくんと踵からバランスを崩した。

固いコンクリートに着くはずだった左足のヒールには何の抵抗も感じられず、紬花が『あっ』と声にした時には、壁へと伸ばした手も届かないほどに体が後ろへと傾いていた。