運転手が扉を開け、コートと鞄を手にしたふたりが降りた直後、子気味良いヒール音が近寄ってくる。
「おはよう」という張りのある声に、陽の後に続こうと一歩踏み出した紬花が振り向くと、ショートカットの髪をかき上げ、上品で繊細なティアドロップのピアスを揺らし笑みを浮かべるあゆみが颯爽とふたりの前に立った。
「おふたりさん、同棲生活一日目はどうだった~?」
「廣崎、お前はまたやってくれたな」
「なによぉ、ゆいちゃんが来てくれて助かってるでしょ?」
あゆみは陽に睨まれても気にせず、「おはようございます」と挨拶を返す紬花の隣に並ぶ。
「ねぇ、ゆいちゃん。今日はランチ、ふたりでいこ?」
誘う目的は一夜目の様子を探るためという邪なもの。
そしてあわよくば、さらに陽をからかうためなのだが、そうとは知らず紬花は快諾する。
「はい! あ、知ってます? 駅前のモールに新しいお店がオープンしたんですよ」
「お、もしかして肉バルの?」
「それです!」
「いいね、じゃあ今日のランチはそこにしよ」
あゆみの楽し気な様子に、陽の目が疑いに細められる。
「これ以上余計な入れ知恵をするなよ」
しかし、あゆみは肯定も否定もせず、代わりに紬花から離れて陽の隣に並ぶと声を潜める。
「した方が御子柴君は助かるんじゃないの? 初恋の君、なんでしょ? これを機に初恋、叶えちゃいなさいよ」
「おいっ」
あゆみの言葉に陽は焦って紬花を振り返ったが、幸いにも紬花には聞こえておらず、不思議そうに瞬きをして陽を見つめた。
「どうかしました?」
「い、いや……」
そっと肩を撫で下ろす陽を見て、あゆみは笑いを堪えきれず小さく吹き出す。
(くそっ……)
陽は心の中で悪態をつきつつ、過去、酔ってつい口を滑らせたことを後悔し、エトワールの扉を開いた。



