紬花に男友達はいない。
近所に住む【異性の幼馴染】という漫画やドラマにありがちな存在もいない。
友人の彼氏という線もあり得なくはないが、写真を見ただけで会ったことはなかった。
では、親族だろうかと首を捻ったところで、さらに別の男性から声がかかった。
『ダサいナンパ方法で俺の女を口説くのはやめてくれ』
ナンパされていることがわからなかった紬花を助けてくれた人物。
その後、やりたいことのいくつかを手伝ってくれたその男性は、今でも素敵な思い出をくれた人として紬花の心に残っている。
(……元気にしてるかな、鳴瀬さん)
細すぎないフレームとアンティーク感のあるメガネがオシャレでよく似合っていた。
もう一度会いたいと願い、父の目を盗んでこっそり繁華街を歩いたのだが、再会は叶わず今日に至る。
(初恋、だったんだよね)
男性との接触が極端に少なかったため、恋をしてことがなかった紬花。
当時、時折見せる鳴瀬の微笑みを思い出すと、会いたいとう想いが募り胸が締め付けられた。
友人に打ち明けた際『それって恋してるんじゃない?』と尋ねられ、初めて”恋”という感覚を知ったのだ。
以来、ずっと心の中で鳴瀬との再会を夢見ていたのだが、エトワールに面接へ訪れた際、陽の顔を見て紬花の心は躍った。
日ごとに滲んでいった鳴瀬の面影が陽の顔と重なって見え、曖昧だった輪郭が蘇ったからだ。
しかし、苗字が違ったため、似ているだけだと落胆した。



