俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない


一夜明け、翌日。

いつもは自宅から出勤していた紬花だが、今朝は初めて外泊し、別の家からの出社となる。

その為、世話をするという目的は忘れてはいないが、少しだけ浮かれていた。


(いつか私も彼氏の家にお泊りしてから会社に出勤……なんてこと、しちゃうのかな)


朝目覚めたら、ベッドに横たわる自分の隣には大好きな人が……と、幸せな妄想をした紬花だったが、なぜかその空想の恋人の顔が陽の顔になる。

しかも、「おはよう」と言う代わりに「行くなよ」と口にされ、紬花はハッと我に返った。


(妄想なのに、うっかり昨夜の御子柴さんに振り回されちゃった)


紬花は、職場へと走るリムジンの後部座席で、向かい側に座る陽に視線をそっとやる。

ダークグリーンのトレンチコートを座席に置き、細身のスーツを纏った陽の視線は膝の上に置かれた、仕事用の資料に落とされていて紬花が見ていることには気づいていない。


(……睫毛長い。モデルさんみたいでかっこいいな……。それに、やっぱり……雰囲気が似てる気がする)


紬花の脳裏に浮かぶのは、もう顔は朧げにしか覚えていない、とある男性と過ごした一日の話だ。