「ニューヨーク土産だ。ゼイバーズのオリジナルブレンドコーヒーとクッキー。良かったら橘さんも食べて」
ゼイバーズといえば、映画などにも出てくる有名な老舗スーパーマーケットだ。
紬花も専門学校の卒業旅行でニューヨークに訪れており、その時に友人たちと立ち寄ったことがあった。
当然、その旅行への参加をセコム親父である紬花の父は大変心配したのだが、ナンパされることもなく、ゼイバーズやアイシングクッキーで有名なエレニーズで購入したお土産を持って無事に帰国している。
「ありがとうございます!」
「じゃ、またな。無理はするなよ」
博人は陽に声をかけてから、軽く手を上げ去っていった。
扉が閉まると紬花が紙袋を両手で抱えるようにして振り向く。
「社長もこのマンションにお住まいなんですね」
「行くなよ」
「え?」
きつい口調で咎める陽に、紬花は目を丸くした。
「どんなに俺が嫌でも、兄さんのところには行くな」
「は、はい。わかりました」
紬花としては、陽は嫌悪感を覚えるような人物ではないのだが、強く言われ、戸惑いながらも頷いてみせる。
すると、陽は僅かに肩の力を抜いて背を向けた。
「俺は少しアトリエで仕事をする。ひとりで問題ない作業だから、橘は浴室の隣にあるゲストルームを適当に使って寝てくれ」
風呂も好きなように使えと言い残し、陽はさっさとアトリエを目指す。
廊下に残された紬花は、陽の機嫌がいきなり悪くなった理由がわからず、困惑したままだ。
もしかして、実は兄弟仲が悪いのかもと考えながら、紬花は紙袋をカウンターに置くと、ゲストルームを確認しに行った──。



