「は? え、ちょっと待て橘!」
断るって何をだと心の中で突っ込んで、思わず右腕を動かしてしまった陽は、襲う痛さに声も出せず悶絶する。
その間に、紬花は玄関の扉を開いていた。
「すみませんけど、新聞はいりません!」
何と言われようと必要ない、ネットで十分ですと告げて扉を閉めるつもりだったのだが、現れた人物に、紬花は驚いて瞬きを繰り返した。
「……え? 社長?」
紬花は、柔らかなカシミヤの黒いコートを羽織った長身の男を見上げ、そう声にする。
身なりのいい、優しげな目元の男の名は御子柴 博人(はくと)。
陽の兄で、エトワールの現CEOだ。
「君は……橘さん、だったね」
博人は、手繰り寄せた記憶から紬花の情報を引っ張りだし尋ねる。
実は、博人は数ヶ月間、新店オープンの為にニューヨークにいた。
また、普段は社長室にいるかセミナーや講習会、交流会に接待と外出していることが多い故に、紬花とは入社後に数度会ったのみなのだ。
「はい。御子柴さんのアシスタントをやらせていただいてます、橘です!」
「やっぱり。陽が特別に雇った子か。ふむ……なるほど、君は陽の恋人だったのか」
「違うぞ、兄さん」
顎に手をあて、納得する博人の声に答えたのは紬花ではなく、ようやく追いついた陽。



