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「ごちそうさま」
すっかり冷めてしまったつまみを温め直し、ワインと共に楽しんだ陽。
ソファーに腰を落ち着け、鼻歌交じりに洗い物をする紬花を眺める。
本来ならこの辺りで買えるよう促すべきだが、仕事面で助かったことと、料理が美味しかったという点を加味し、とりあえず住み込みでの世話は受け入れることに決めた。
(何より、ようやく会えたわけだしな)
紬花が覚えていなくても、あの頃再会を切望していた相手が自分の世話をしたいと努力してくれているのだ。
(しかし、すっかり忘れられているとはな……)
たった一日の逢瀬とはいえ、紬花にとって過去の自分の印象はそんなにも薄かったのかと微妙な心境になっていた時、リビングにチャイムの音が鳴り響いた。
しかも、マンションのエントランスではなく玄関前のだ。
だが、陽には九割、チャイムを鳴らす相手が誰であるかはわかっている。
そして、今、相手を迎え入れた場合、紬花との関係を勘ぐられるだろうことも。
水道のハンドルを締めた紬花が首を傾げる。
「あの、出なくていいんですか?」
「面倒なことになるとわかっている場合、お前は出るのか?」
面倒なことと言われ、紬花の頭に浮かんだのは洗剤などを持ってやってくる業者。
「なるほど、あれですね! では、私がはっきりお断りしてきますから!」
ここでも陽の役に立ってみせようと、エプロンを纏ったまま意気揚々と玄関へ向かう。



