もう謝らなくていいと告げたはずなのだがと、心中で苦笑した刹那、陽はふと妙案を思いついた。
「そうだ、お前が俺の代わりに描け」
「えっ!? デザイン画をですか!?」
驚愕し、思わず半歩下がった紬花に陽は眉を上げて「その通り」と頷いてみせる。
「何でもするって言ったよな? 右手を使えない俺の世話をするんだろ?」
「いっ、言いましたけど、私で大丈夫ですか?」
アシスタントであり、まだデザイナーとしては卵ともいえるような自分が、陽の手の代わりなど務まるのか。
瞳に不安を滲ませて確かめると、陽は「俺の左手よりひどいようなら帰ってくれ」と発破をかけた。
すると、紬花の背がしゃんと伸びる。
「頑張ります!」
まだ大して陽の役に立てていないのだ。
お邪魔して数時間。
少しの掃除と夕飯作りをしただけで帰るわけにはいかない。
紬花は陽から鉛筆を受け取ると、指示に従いデザイン画を描いていく。
「胸元から袖まで、パールビーズかクリスタルビーズを」
「はい!」
すでに全体のシルエットは完成しており、紬花の仕事は細部の書き込みだ。
「違うだろ。こことここにプリーツだ。お前の頭はニワトリか?」
「すみませんっ。あ、とさかはないです。ドレープ入れるのはこんな感じですか?」
「もう少し上から。こっちはきつめに」
途中、何度か毒を吐かれながらも、紬花はウェディングドレスのデザイン画を仕上げていく。
紬花はデザイン画を描くのが好きだ。
無の状態の真っ白な空間に、少しずつデザインしたものが形になっていくのが楽しいのだ。
まして、陽のように経験溢れるデザイナーのアイデアは勉強になる。
最初こそ尻込みしていた紬花の顔には、気づけば
笑みが零れていて、その横顔を盗み見た陽は、ひっそりと眦を下げた。



