俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない


──夜の帳が下りる頃、オーブンに入れていたスティックマルゲリータが焼きあがり、夕食のつまみが全て完成した。

紬花は、キッチンカウンターに置かれた木目調のデジタル時計に視線をやる。


(御子柴さん、お仕事ひと段落ついてるかな?)


夕食ができたことを知らせにアトリエの扉をノックするが返事はなく、「御子柴さん、夕飯できましたよ」と声をかけながら遠慮がちに開け室内を覗き込めば、左手で鉛筆を持ちデスクに視線を落とす陽を見つけた。

描きづらそうにクロッキー帳に鉛筆を滑らし、眉間に皺を寄せている。


「あの、御子柴さん?」

「なんだ」


視線はクロッキー帳に落としたまま、少し苛ついた声で答えた陽。

何度も線を往復するが、うまくいかずに長い指から鉛筆が離れようやく視線を上げた。


「お夕飯できましたけど、後にしますか? ……というか、本当にごめんなさい」

「なんで謝る。焦がしたか?」

「いえ、そうじゃなくて、描きづらそうなので……」


申し訳なさそうに眉を下げた紬花の表情に、自分の利き手が不自由になっている原因について謝罪しているだと陽は理解する。