陽の父親は元々ブライダル業界に興味がなく、ワイン好きの趣味が高じて二十年ほど前にワインメーカーを設立。
五年前に、ワインコンテストにて入賞を果たし、現在はそちらの経営に精を出している。
今はエトワールの社長である博人が、実はこちらの事業についても勉強をしているのを陽は知っているのだが、そうなるといずれは陽がエトワールを任されることになるのだろう。
数年前まで、デザイナーとして、経営者として活躍していた祖母のように。
自分に務まるのかという不安がないわけではないが、その時、隣に紬花がいるならば。
まだ見ぬ未来に自然と陽の頬が緩むと、リムジンは正面玄関の前で止まった。
お付きの運転手に促されて降りると、陽は両開きの立派な玄関扉を押し開けた。
エントランスの掃除をしていたメイドが陽の姿を確認すると、慌てて頭を下げる。
「お、お帰りなさいませ陽様! 本日、旦那様と奥様は」
「ああ、知っている。アトリエに少し用があって訪ねただけだ」
陽の言葉に「そうなのですね」と答えたメイドは、紬花が「お邪魔します」とお辞儀をすると、笑みを浮かべて礼を返した。
「お部屋にお茶をご用意しましょうか?」
「それなら二十分後に頼む」
「承知いたしました」
メイドが一礼の後に下がると、陽は紬花の手を取った。
「アトリエは二階の奥だ。行くぞ」
「は、はい。あの、アトリエで何を?」
「行けばわかる」
微笑んで答えると、手を繋いだまま横に広々とした階段を上がり、明るい日差しが差し込む廊下を進んでいく。



