──お前の一日を俺にくれないか?
陽にそう告げられたのは、朝食の後のこと。
エトワールは定休日で、特に予定もない紬花はいちもにもなく頷いた。
そして、支度後、陽に案内されるがままに辿り着いた先……。
「こ、ここが陽さんのご実家!?」
重厚感たっぷりの黒い門の前で、紬花は驚愕した。
陽がいわゆる御曹司であることはもちろん承知している。
居住しているタワーマンションの部屋も、普通にイメージする一人暮らしとは到底かけ離れている広さだ。
陽から「用があるからまずは実家に寄る」と聞いた際、なんとなくテレビ活躍する芸能人の家というイメージを浮かべていた紬花だったのだが、予想以上の豪邸がそこに現れた。
ここは日本だろうかと見紛うレベルの大きなヨーロッパ風の石造りの洋館が奥に見え、ふたりが乗るリムジンが、自動で開いた門の中へと入っていく。
「え? 私今日本にいます?」
もしや知らぬ間に寝こけていて、いつのまにかヨーロッパに飛んだのかと半ば本気で首を傾げると、隣に腰掛ける陽が小さく笑った。
「飛行機に乗った記憶は?」
「まったくありません」
「なら日本だろ」
「でもこのお屋敷、絶対お姫様とか住んでますよ?」
「住んでいるのは俺の家族だ。が、今は祖母、両親ともに不在だ。祖母はパリの友人のところだが、両親は仕事で今はカナダに滞在している」



