愛さずにはいられない

仁は手をあわせてからしばらく絃に話しかけていた。
そして立ち上がり奈央を見る。

「俺さ、決めたんだ。」
「?」
「絃が亡くなったあの日。」
仁は真剣な目で奈央を見つめる。
「俺は絃の分も生きようって。自分の体に絃を背負って生きようって。その姿はなくても、それでもいい。俺の心の中の半分は絃なんだって。」
仁は絃について、亡くなってから話をすることはほとんどなかった。

「だから、奈央のことも守りたいって思った。絃がしたかったこと、叶えたかったこと、言いたかったこと、俺はしてやりたいっていつも思ってたんだ。」
奈央は仁が自分に結婚を申し込んだのも、そういうことだったのかと思った。
絃の代わりに・・・そういう意味か。
「でも俺はいつの間にか、自分の中の絃への気持ちが奈央への気持ちを膨らませているわけじゃなくて、ただ、俺が奈央を好きなんだって気が付いたんだ。いや、本当はもっと前から気づいてた。」
奈央が真剣に話をする仁を見つめる。