愛さずにはいられない

墓石の前で大きな体を小さく丸めて、大きな手をあわせる仁。

仁も絃が事故にあった時のことを思い出していた。

ちょうど専門学校が終わってバイト先へ着いた時だった。
母からの連絡に仁はバイクを走らせて病院へ向かった。

病院の冷たい廊下の奥で、両親が泣き崩れていた光景が忘れられない。

先に病院へ来ていた奈央はただぼーっと絃のいる部屋のドアを見つめていた。


その日以来、奈央が歌えなくなった。

その日以来、奈央が泣かなくなった。

両親も悲しみに打ちひしがれてしばらく笑わなくなった。