愛さずにはいられない

「~♪」

仁は大きな段ボールを持ちながら階段を上がると次第に聞こえてくる奈央の歌声に耳を澄ませた。
つい立ち止まっていつまでも聴いていたくなるような歌声だ。

こうして奈央の鼻歌を聞くことですらかなり懐かしい。

奈央はスタジオでのリハビリを定期的に繰り返し、今では前のように歌えるようになった。

でも、人前では歌わない。一人では歌う勇気がないと奈央は廣瀬の提案を断り続けている。

「仁?」
部屋の中から奈央に呼ばれて仁は再び歩き出した。

仁と奈央の新居がやっと完成して徐々に荷物を運び始めている。

妊娠中の奈央が無理しないようにと仁はほとんど大きな荷物は一人で運び、細かなもののディスプレイを奈央に任せていた。
引っ越し作業には時間をかけ、ゆっくりやることにしている。
赤ちゃんが生まれるときに完全に引っ越し作業が済んでいればいいと二人は考えていた。