仁はカバンからあるものをだすと奈央の手に渡す。
「ありがとう。」
奈央が仁から渡されたのは目薬だった。

すぐに奈央は目薬を両目にさす。
「ほら」
仁はティッシュを取り出し奈央の目薬を拭き取った。

その手つきがなれているのは絃が亡くなってから何度も起きているからだ。

歌えなくなった奈央は歌おうとするだけで過呼吸になり歌えない。
絃が亡くなった日から奈央は涙も出なくなってしまった。

過呼吸になる奈央のために仁はいつも紙袋を携帯している。でも、この日のように仁がそばにいると奈央の過呼吸は紙袋がなくても自然におさまるようにいつしかなった。

涙がでなくなった奈央は目薬がないといられない。目が乾き激しい痛みを起こす奈央のために仁は予備の目薬も常に持っていた。