愛さずにはいられない

「これは、絃が亡くなった日に書かれたメッセージなんだ。きっと奈央に気持ちを伝えようとしていたんだろうな。なかなか言葉がまとまらなかったらしくて、一曲の中にメッセージを込めたみたいだけど、書ききれなかった分がここに詰まってる。」
廣瀬はそう言ってその紙を奈央に渡した。
奈央が恐る恐るその紙に手を伸ばす。
「ちょうどあの日、スタジオを使っている絃のところへ俺は行ったんだ。どうしても奈央が専門学校を卒業するまでは自分たちの本名も顔も公表したくはないっていう絃にもう一度説得をするためにな。」
奈央の知らなかった事実がまたわかる。
「あの日も俺は絃にきっぱり断られたよ。奈央が本当にやりたいことが見つかるまでは絶対に顔を出さない、名前も出さないって。もしも無理やりにでも公表するなら事務所を辞めるとまで言われたんだ。」
廣瀬はなつかしさに表情をゆるめた。
「あいつ・・・よほど奈央を好きだったんだろうな。そこまでしてでも奈央を守りたかったんだろうな。」
仁にも絃の気持ちはわかっている。
知らなかったのは奈央だけだ。
奈央はどうしてその絃の気持ちや想いに早く気づけなかったのだろうかと自分を責めた。
自分は絃の何を見ていたのだろうかと。