「あなた、昔一躍有名になったYOUのボーカルの子でしょ?」
奈央はその言葉に息を飲む。
「昔、君たちを取材したことがあったんだよ。顔は写さないでほしいって言われて印象に残ってたんだ。」
奈央の手をつかんだのはカメラマンだった。
「確か二人組だっただろ?もう一人が亡くなってそのまま業界からは姿を消した伝説のグループの君、ボーカルだっただろ?」
「・・・」
奈央は全身が一気に冷たくなっていくのを感じた。
「二人ともメディアに出ても十分に通用するルックスだったのに、むしろそのほうが話題性が上がるのにそうしないことが不思議だったんだ。まぁ、メディアには一切顔を出していなかったから、君たちの顔を知っている存在もほとんどいないだろうけど。」
奈央はそっと男の腕から逃れた。どうしよう・・・。

奈央は過去を誰にも話していない。

今日の打ち上げに来ている人の中でその事実を知っているのは仁だけだ。
思わず仁の方に視線を送る。
でも仁はさらに増えた女性の取り巻きの中にいて奈央の方は見ていなかった。