愛さずにはいられない

「これは絃のものだからと思って、自宅にもっていこうと思ったんだけど、私も絃の何かをそばに置いておきたくて。自宅には昔から絃が使っていたギターもあったから私が一本は持っていたかったんだ。」
「いいんですか?」
仁がギターを廣瀬から預かりながら話しかける。
「あぁ。私には十分絃との思い出がある。それに、そのギターがなくても時々私の仕事ぶりを絃はチェックに来ているような気がするんだ。」
廣瀬はそういうと顔のしわを寄せながら笑った。
「昔から私にも容赦ない奴だったからな絃は。」
「すみません」
そういう仁も絃を思い出して微笑む。

仁は廣瀬から渡されたギターを大切に撫でた。
まるで絃を抱いているかのように。