愛さずにはいられない

「わざわざ来てもらって悪かったな。」
「いいえ。」
仁が緊張して話せない奈央に変わり返事をする。
「先日はお世話になりました。お忙しいのにすみません。」
「いいえ。こちらこそ。来月には君が参加するショーがあると聞いて、楽しみにしています。」
「来てくださるんですか?」
「もちろん。私にとって絃は息子同然でしたからね。あなたも息子のようなもんだ。」
「ありがとうございます。」
仁は廣瀬に微笑んだ。
「奈央。そんなに緊張するなよ。・・・って言っても難しいよな。」
廣瀬も奈央の様子に気が付いていて、何とか気持ちをほぐそうと話しかける。
そんな廣瀬にも奈央はぎこちなく微笑んで答えた。


「渡したいものは二つあるんだ。一つは」
廣瀬はそういうと自分の机の後ろから一本のケースにしまわれたギターを出した。
「これは絃がスタジオで使っていたギターでね。私が昔使っていたものを絃に譲ったものなんだ。」
廣瀬はそのギターを仁に渡した。