愛さずにはいられない

「お兄さんの噂は私の業界にも届いていますよ。絃に面影が似ていますね。」
「よくいわれます。その節は大変お世話になりました。」
仁が深々と頭を下げると廣瀬は豪快に笑いながら仁の背中に手をのせた。
「大変な想いをしましたね。もったいない人を亡くした。でも私は生きている絃に会えたことを神様に感謝しているんです。まぁ、あんなに若くして亡くしたことは納得できませんがね。」
「私も同じです。」
仁が微笑む。
奈央は社長の顔をじっと見ていた。
「奈央。きれいになったな。」
高校生の頃に出会った廣瀬は奈央たちにとっては父のような存在だった。
「ずっと会いに来てくれなくて寂しかったぞ？」
「ごめんなさい。」
「・・・いいんだ。大変だったな。元気か？」
廣瀬は奈央の頬に触れた。
「はい。」
「ならいいんだ。絃を失ってもちゃんとたくましく奈央が生きてくれていればそれでいい。」
そう言ってくれる社長に奈央は心から感謝をしている。
契約も終了している奈央の預金通帳に絃と奈央のユニットの利益をいまだに納入してくれているのは廣瀬の好意のようなものだった。