愛さずにはいられない

その後、絃は奈央にギターを教えてくれるようになった。
覚えの早くはない奈央にギターを教える絃はどこまでも優しくて、ぶっきらぼうな絃とたくさん話ができるギターの練習を奈央はどんどんと好きになった。

『なんで絃はこれがおさえられるのに、私にはできないの?』
『仕方ないだろ、奈央はまだ手が小さいから。もっと大きくなったらおさえられるようになるって』
ギターのコードは中には手の大きさにより弦をおさえるのが難しかったり、今の奈央にはおさえられないコードがある。
『これは難しいから、こことここをおさえればいいんじゃないか?』
そんなとき絃は奈央に優先する音を決めて教えてくれる。
『じゃあ、これは歌っちゃう!』
奈央がふとおさえられないコードの音を声にしてギターに合わせた時
『奈央、これは?この音は?』
とそれまでとは絃の顔つきが変わった。
『奈央すごいな!奈央の声も歌も、すごいな!』
今でも絃がそう言ってそれまでで一番の笑顔を見せてくれたことを奈央は鮮明に覚えていた。

次に奈央が絃のところへ行くと、絃は目の下にくまを作りギターとたくさんの紙の山の中にいた。