花霞に椋が怒られた日。

 椋はとても驚いてしまった。
 椋に頬を掴み、睨みながら怒る花霞。彼女と一緒に暮らすことになったばかりの頃は、雨にうたれて弱々しく泣いていたり、椋に守られて過ごしていた。
 それが、今では「自分を頼って欲しい」と言ってくれるのだ。
 彼女の変化に驚きながらも、椋は嬉しくなっていた。怒られて嬉しくなるなどおかしな話かもしれない。

 けれど、花霞自身が自信をもっているからこそ、そんな風に言えるのだろうと思うと、今の花霞がとてもキラキラして見えたのだ。

 それに比べて自分はどうだろうか。
 最近の自分の姿を思い返してみると恥ずかしくなってしまう。

 遥斗の名前を語った偽者のメールに踊らされ、気持ちが不安定になり、事件があれば自分のせいだと落ち込む。挙げ句の果てには、彼女が他の男性と話しているだけで嫉妬してしまうのだ。

 彼女にはカッコ悪いところばかり見せてしまっているな、と椋は反省していた。
 けれど、そんな自分を愛し叱ってくれる妻がいる。それがとても幸せなことだと思い、顔がニヤけてしまう。
 いつからこんなに溺愛しているのだろうか。そう考えると、彼女に会ってからずっとだと今更気づいたのだった。

 あんな事を言わせてしまったのを反省しつつ、椋は花霞に感謝していた。
 けれど、花霞が考えている事がわからずに椋は心配でもあった。

 危ないことはしないといいな、と彼女に聞くと「…………大丈夫じゃないかな。でも何かあった時はすぐ連絡するから。助けに来てね」と、言われてしまった。
 もちろん止めてくれとは言ったけれど彼女は止めるつもりはないようだった。
 彼女しか出来ない事なのだろう………。
 心配しつつも、滝川が前に「警察にスカウトしたい」と言った気持ちが少しだけわかったような気がした。

 彼女を支えよう。
 次こそは彼女を守るのだ。
 彼女に危険が及ぶ前に、犯人を見つけるのだ。
 そう決意して、椋は仕事に臨んだ。