「………俺が助けに来るのが遅くなったのがわるかったんだ………悪かった」
 「そんな事は………」
 「蛍さん。今は妻も疲労していると思うので自宅につれて帰る。後日また、お礼をさせて欲しい」


 そういうと、椋は蛍に名刺を手渡した。
 受け取った蛍は「警察………」と、言葉をもらして、名刺を見つめていた。


 「連絡先は………花霞ちゃんは知ってるよね?」
 「うん。フラワーブーケ教室の申し込みの時に聞いてるけど」
 「そこから連絡してかまわないか?」
 「えぇ。大丈夫です………。花霞さん、ゆっくり休んでくださいね。」
 「蛍くん、助けてくれて、本当にありがとう」


 花霞が蛍に深々と頭を下げてお礼を言うと、蛍はいつものようにはにかんだ表情を見せてから、帰っていく。
 花霞は、心の中でも蛍に何度も何度もお礼をした。自分からも何かお礼をしなければと、頭の中で考えた。


 「花霞ちゃん、帰ろう?」
 「うん……」


 椋は花霞の手をしっかりと握りしめると、夜道をズンズンと歩き始める。
 いつもならば花霞の歩調に合わせてくれるが、今日の彼は違っていた。
 とても急いでいる様子だ。自分を早く家に連れて帰ってくれようとしているのだろうか。
そんな風に思い、花霞は黙って彼の後を小走りで歩いた。