「怪我はない?………何があった………?」
 「と………突然知らない車が近くに止まって、腕を引っ張られたの………それで逃げようとしたんだけど、無理で。そこを、蛍くんが助けてくれたの………」
 「…………蛍………。あの………」


 椋は花霞から離れて、近くに居た蛍を見つめた。
 そして、厳しい視線を彼に注いだ。
 花霞を助けた者へというよりは、連れ去ろうとした者への態度のように警戒しているのがわかった。


 「あの、俺は………家に帰る途中に花霞さんが危ない目にあっているのを見かけて……」
 「蛍さん、だったな。俺の妻を助けてくださって、ありがとう。感謝してる」
 「いえ………花霞さんに何もなくてよかったです」
 「…………椋さん。蛍くんがいなかったら、私………本当に捕まってたと思う。バックを投げて抵抗しても、力一杯引っ張ってもダメで。体が震えてしまって、上手く動かなかったし………」
 「花霞さん………」


 花霞は、椋の腕を掴みながは蛍がしてくれた事を伝えた。

 彼が居てくれなったら、助けてくれなかったら。自分はあの黒マスクの男に連れ去られていた可能性が高いのだ。そう思うと、恐ろしくて仕方がない。
 
 花霞の必死の訴えに、椋は彼への視線を少し和らげた。