☆☆☆



 「遅くなっちゃったな………」


 花霞は、夜道を走りながら独り呟いた。
 閉店間際に来店したお客様の予約が大量だったため、店を閉めて退勤したのは、いつもより大分遅くなってしまったのだ。
 けれど、お店をとても好いてくれる常連様で、花霞も馴染みのお客のため、とても有意義な時間だった。華道の先生であるお客様とお花の話をするのは楽しみであり、勉強になる事が多かった。

 けれど、遅い時間になると電車の数も少なくなる。ますます帰宅時間が遅くなると椋は心配するかなと思ったけれど、彼からメッセージは届いていなかった。
 きっと、椋も忙しいのだろう。余計な心配をかけるのはよくないと思いスマホを閉じようとした時だった。

 急にスマホがブブッと震えた。
 そして、画面がロック画面から動かなくなったのだ。


 「あれ………どうしたんだろう?」


 花霞は不思議に思いながら、1度スマホの電源を落としてバックに閉まった。


 それから、夜道を一人で歩く。
 駅周辺は人も多いが、マンションがある辺りは住宅地になっているため、深夜になると人が少なかった。
 真っ暗で静かな道を独りで歩くのは、やはり怖いものだった。
 花霞はギュッと鞄を握りしめて、少し早足で夜道を急いだ。