『時間だ。作戦開始』
 「…………了解」


 耳に着けている無線から上官の声が聞こえた。その声を聞き、椋や誠の他数名でその本拠地に突入した。
 麻薬組織が隠れ家としていたのは街から離れた廃工場だった。小さな工場だが、塀は高く窓は少ない。そして周りに住んでいる人はいない郊外のため、絶好の隠れ家だっただろう。警察を見つけられないはずだ。
 椋は頭に叩きこんた廃工場の見取り図を思い出しながら、一番広い部屋へと向かった。
 中の状況を見ながら進んでいく。奥に行くに連れて、椋は妙な違和感を感じた。
 静かすぎるのだ。
 皆が寝てるいる時間なのかもしれないが、それにしても人気を感じない。そして、椋の警察としての勘で嫌な風を感じた。

 

 「誠………」
 「はい」


 椋は小さな声で後ろにいる部下に声を掛ける。緊張した面持ちの彼は、暗闇の中、きょろきょろと椋の背後を警戒していた。隙のない動きをしているし、ほどほどの緊張感もあり、集中もしている。初めての突入にしては落ち着いているように見えた。


 「何か妙な違和感を感じる。気を付けろ」
 「わ、わかりました」


 椋は誠に警戒を促すと、またゆっくりと進み始める。あと数歩で目的の場所だ。他の部隊も違う場所からここに入る指示を待っているはずだ。

 「鑑、到着しました」
 『了解』


 内線で報告をし、他の部隊と同時に突入をするのを待つ。
 しかし、椋にはどうしても先に人がいるとは思えなかった。
 それを報告しようか迷っていると、次の指示が来てしまう。