「誠。おまえは緊張しすぎた。それではいざって時に頭が働かなくなるぞ」
「す、すみません………拳銃を持つのも本番では初めてなので………体が固いというか重い気がして」
「おまえの任務は俺の援護だ。俺は先陣を切る役目だから、お前は後ろを守ることだけに集中すればいい。今日はそれだけを気にしろ」
椋は誠が安心できるような言葉を選び話しかける。誠は真剣に話を聞き、そして、力強く頷いた。
「わかりました。先輩の背中は俺が守ります!」
「………頼んだ」
少しでも肩の力が抜けていればいいが、と心配したけれど、先程より表情は柔らかくなったように感じ、椋は取り合えずは安心をした。
今回の組織とは、深い因縁がある。
早くこの組織の事件は全て終わらせたい。そう思っている。
悪いことだらけの思い出だ。
今でも潜入捜査をしていた時の事を思い出しては後悔する事もあった。
けれど、過去を悔やんでも何も変えられない。
それならば、目の前の事を精一杯やって、少しでも苦しむ人々を減らしたい。
その思いで、この組織と向き合っていこうと決めた。
拳銃を手を取ると、あの日の事を思い出す。
もう自分の手に取る事はないと思っていた。けれど、今こうして自分の手の中にずっしりと重くて冷たい黒い武器がある。指1本を引くだけで、人を殺したり、花霞のように傷つけてしまう。
けれど、今は自分を守るためにあるのだ。
なるべくならば、この武器を使いたくはない。けれど、いざとなったならば、この拳銃を使う。
花霞の元に帰らなければいけない。
愛しい彼女が待つ所へ帰りたいと強く願っているから。
椋は拳銃を握りしめながら、潜入の時を待った。



