花霞はほっこりとした充実感を感じながら、家までの道を歩いていた。
 自分にも誰かの心を変えられる力があったのだ。それがとても嬉しかった。
 少しずつ仕事の評価が高くなる事に戸惑いもある。けれど、それ以上に今まで出来なかった花の仕事が出来る事が楽しくて仕方がなかった。


 「あ………栞にブーケ教室に追加の参加が決まった事、教えないと」
 

 花霞はそれを思い出して、急いでスマホから職場よ花屋に連絡をした。
 すると、ちょうどよく栞が出てくれた。


 『休みの日にどうしたの?椋さんとデートじゃなかったの?』
 「椋さん、仕事になったからひとりなんですー!」
 『それは残念だったね…………それで、どうしたの?』
 

 心配そうな声で言う栞に、花霞は慌てて用件を伝えた。

 「次のブーケ教室、1人追加をお願いしたくて。申し込みは今度来店した時書くって」
 『それは大丈夫だけど…………花霞のお友達?』
 「ううん、蛍くんだよ。今日たまたま一緒になったから、彼を誘ってみたの」
 『蛍くん…………か』


 花霞から蛍の名前が出てくると、栞のトーンが低くなったのを感じた。
 栞は『花霞………それ大丈夫?』と聞いてきた。


 『花霞は、蛍くんに近づきすぎよ。彼から近づいてきているのはわかってる?』
 「そんな事は…………」
 『あるわ。花霞、あまり彼には近づかない方がいいと思う』


 きっぱりとした口調でそういう栞の声を電話口で聞いていた花霞は、ゆっくりと一呼吸置いた後に栞と同じような真剣なトーンで話を続けた。


 「ごめんね、栞。………気になることがあるから」


 今の花霞には、まだそれしか彼女に言う事が出来なかった。