そして、蛍が前に自分に話を掛けようとしたけれど、止めてしまった事を思い出した。
 花霞はそれが少し気になっていた。彼が何か花に関する事で質問があったのではないかと思っていたからだ。

 花霞は、さっそく蛍に普段使いの言葉で話を掛けた。


 「ねぇ、蛍くん。前にお店に来てくれて帰るとき、何か私に話したいこととかあったんじゃないかな?」
 「え…………」


 蛍は少し驚いたように花霞を見た。
 花霞が微笑み返すと、蛍はホッとした表情を見せていた。
 口元にパンを運んでいた腕を座っている脚に戻し、蛍は少し考えた後にゆっくりと口を開いた。それを言葉にするかは迷っていたようで、なかなか声は出なかったけれど、花霞が急かすことなく待っていたからから、蛍は重たい口を開き話を始めた。


 「実は…………俺、もっと花の事を知りたいなって思ったんです。」
 「蛍くん………」
 「前まで花なんて食べられないし見ても癒されないしって思ってました。だけど、花霞さんのブーケを見つけて、花を買って見るようになってから………不思議なんですけど、すごく惹かれたんです。生きているものを買うって少し怖い感じがしたけど、でも花が咲いているのを見るだけで家に帰るとホッとしていたんです。………男でこんな事思うのはおかしいかもしれないけど、花にもっと咲いていてほしいし、知りたいって思うようになってました」


 蛍は恥ずかしいのか、視線は花霞に向けられてはいなかった。けれど、彼がキラキラした瞳で空を仰ぎながら話す言葉は、どれも本物だとわかる、まっすぐな声だった。