椋が食器を洗っていると、花霞は食後に飲むお茶を準備してくれていた。
 先日ラベンダー畑に行った時に購入したラベンダーティーに2人でハマっていた。普段飲む紅茶の味は変わらないけれど、ラベンダー香りがとても甘く濃厚なので、ラベンダー好きになった椋と花霞にとってはお気に入りの一杯になっていた。温かい方が香りも出るので、どんなに暑い時でも2人はホットにして飲んでいた。香りを楽しみながら、温くなったら飲むという楽しみ方だった。

 飲みやすい温度になるまで、リビングのソファで2人でくつろいでいると、花霞が椋の腕に抱きついてきた。腕にしがみつくように体を寄せて、頬もぴったりとつけている。クーラーの冷風のせいか、彼女の肌はほんのり冷えていた。


 「………花霞ちゃん?どうしたの?」
 「…………椋さん、何かあった?」
 「え?」
 「何か、帰ってきてから悲しそうな顔をしているから」


 花霞はギュッと腕を抱きしめながらそう言った。もちろん、椋には思い当たることはある。
 けれど、彼女の前では笑えていると思ったし、花霞のおかげで忘れられていたと感じていた。
 けれど、花霞は自分のささいな変化に気づいたのだろう。どこで気づいてしまったのかはわからない。
 そんな彼女はすごいなと思いながらも、嬉しくなってしまう。花霞は自分をよく見てくれているのだ。そんな事がわかったからだ。