「蛍くんかー。珍しい名前だなー」


 彼を見送り小さく手を振りながらそういうと、後ろから栞がひょいっと顔を出した。


 「随分、楽しそうにしていたようで?」
 「え?お花好きな人だからついつい話しちゃうよね」
 「…………秘密の恋、ねー………」
 「え………?そ、そんな事ないよっ!!」


 栞が薬指の結婚指輪を指差しながら「秘密の恋」というので、さすがにわかってしまった。
 花霞は慌てて否定をする。そんなつもりは全くなかったし、一人のお客さんとして対応していた。


 「わ、私は椋さんだけだよ。彼が1番大切で大好きだから………そんなことは絶対にないよ!」
 「はいはい。そうでしたねー。いつまでもラブラブな新婚さんで羨ましいです」
 「もう、からかわないで!!」


 花霞が大きな声でそういうと、「ふふふー」と笑いながら、栞は逃げるように店の中に入っていた。

 花霞は苦笑しながら店に入る。
 そして、蛍の事を思い出した。彼が花をもっと好きになってくれればいいな。そんな事を思っていた。